喩え話への反論の作法

何かの論理構造を説明する際に喩え話を出すと、それに対する反応として、「その喩えは喩えとして相応しくない」という反論がなされることがあります。しかし、その反論の根拠が的を射ていないケースもよく見受けられるようです。そこで、「その喩えは喩えとして相応しくない」という反論が反論として成立するようにするためには、どのような根拠を示せばよいのかについて考えてみたいと思います。

「AはZという属性をもつ」が成立することを「BはZという属性をもつ」が成立することに喩えたとします。これが喩えとして成立するための条件は、「AとBの共通の属性Cが存在して、CはZという属性をもつ」が成立することです。喩えをすることに意義は、Aのどの属性を根拠に「AはZという属性をもつ」が成立すると主張しているのかがより鮮明になるという点にあります。つまり、AにあってBにはない属性は「AはZという属性をもつ」という主張の根拠ではないということを意味するわけです。本来ならば、Cをずばりと直接的に述べればいいのでしょうけれど、言葉として簡潔に言い表すのが難しい場合には、Cが何であるかを絞り込むための有効な手法の一つと言えるのではないでしょうか。

では、上記を踏まえたうえで、「その喩えは喩えとして相応しくない」と反論するためには何を言えばいいのでしょう。「AとBの共通の属性Cが存在して、CはZという属性をもつ」が成立しないことを言えばいいのです。すなわち、「AとBに共通するどの属性もZといういう属性をもたない」ことを言えばいいのです。もちろん、これを言うのに、「Aのどの属性もZという属性をもたない」「Bのどの属性もZという属性をもたない」のどちらか一方を示すという方法でも十分ですし、喩えた人に「AとBの共通点って何?」と聞いてみると案外Cが何であるかについて表現を試みてもらえるかもしれません。

よく「AとBはDという属性をもつかどうかという点で異なる」という根拠のもとに「その喩えは喩えとして相応しくない」と主張する人を見かけることもありますが、論法としては頓珍漢でちょっとお話になっていないような気がします。