禁止宣言は手軽な呪文

これまでの無断リンク禁止宣言に関する一連のエントリーにて、無断リンク禁止宣言の本質的効果についての論理構築にチャレンジしてきたわけですが、一旦まとめておいてみたいと思います。なお、これまでのエントリーは本まとめに至るための試行錯誤の過程であって、本まとめとの間に論理的に整合性のつかない場合もあります。その場合、整合性のつかないものは破棄され、本まとめに現れる論理に修正されたものとします。

まず、本まとめで扱う言葉の語義について説明します。「嫌がらせ」という言葉の語義についてですが、「相手にとって嫌な行為であると知っているにもかかわらず相手に対してその行為をする行為」という意味で扱います。「無断リンク行為」を「リンク先のサイトが事前にリンクをされることを知り得ない状況のもとでなされるリンク行為」と扱います。「無断リンク禁止宣言」は、「どのようなサイトからも無断リンクをされるのは嫌であるということの宣言」として扱います。これらのすべての行為についての善悪性に関する前提を一切置きません。

ウェブに関して「無断リンクをすることも、無断リンク禁止宣言をすることも制限されていない」という前提を置きます。

これらのことから言えることは、

  • 無断リンク禁止宣言は、すべてのサイトを無断リンク禁止の対象にしていることを明らかにしているという意味で、無断リンクをしたい特定のサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことの説明のもとになされる行為
  • 無断リンク禁止宣言をしているサイトへの無断リンク行為は、どのサイトを(可能性ではなく確実に)リンクをする対象としているのかを明らかにしていないという意味で、相手のサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことの説明なしになされる行為

ということになりそうです。特に、後者は無断リンクをする前に相手のサイトが無断リンクをされるのが嫌であると知り得ているので、その行為は嫌がらせということになります。

もしそうならば、各個人によるウェブの利用するかどうかの決定に伴う自己責任には

  • 無断リンクをすることも、無断リンク禁止宣言をすることも制限されていないが、無断リンク禁止宣言をしているサイトに無断リンクをすることは、相手のサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことの説明なし嫌がらせをすることを意味する(このこととは非対称的に、無断リンク禁止宣言をすることは、宣言されると嫌であることを知り得たサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことを説明したうえで嫌がらせをすることを意味する)

ということが含まれることになります。この結果として、

  • 無断リンクをした人は無断リンク禁止宣言をした人からの「なぜそのような行為をするのですか」という質問に答えなければならない筋合いにない(無断リンク禁止宣言をした人の自己責任)
  • 無断リンク禁止宣言をした人は無断リンクをしたい人からの「なぜそのような宣言をするのか?」という質問に答えなければならない筋合いにない(無断リンクをしたい人の自己責任)
  • 無断リンク禁止宣言をしたサイトに無断リンクをすると、相手のサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことの説明なし嫌がらせをしたことになる(無断リンクをした人の自己責任)
  • 無断リンク禁止宣言をすると、宣言されると嫌であることを知り得たサイトに対して特に差別的に嫌がらせをしているわけではないことを説明したうえで嫌がらせをしたことになる(無断リンク禁止宣言をした人の自己責任)

が言えそうです。

まとめはここまでです。

無断リンク禁止宣言という行為を、宣言する側から無断リンクをしたい側への命令ととらえる人もいるみたいですが、上に得られた結果の3番目のものの構造を見る限り、無断リンクをしたい人が無断リンクをすると自動的におまけがついてくるというだけものなので、個人が個人を特定して下す命令とはちょっと違うような気がします。

「相手に対して、その人を特に差別的に扱っているのではないという説明をすること」を軽視したくない人にとって禁止宣言は、する側には手軽さがあり、される側には荷が重いと感じられる部分はあるかもしれませんが、ウェブの構造上仕方のないことなのかもしれません。

本まとめで述べた論理は、無断リンク禁止以外のローカルルールにも適用できるかもしれません。ただし、初めて訪れたサイトでのキリ番報告義務みたいなものは、そのサイトに訪れるまでそのローカルルールを知り得ないという意味で、無視しても差別的嫌がらせにはならないような気もしますが。

ブックマークコメントへのレス

またまとめ。 / 但し、差別的にならないためには、リンクの申し込みは、全て承諾。

はてなブックマーク - kana-kana_ceoのブックマーク / 2007年9月6日

議論の過程においてどんどん前提を削ぎ落としているから、ちょっと話が進んだらまとめておかないと。

話を展開しているレイヤーがサイト管理やブログ管理のレベルなので、それはそれで正しいと思う。/ただ、インターネットってプロトコルレベルやHTMLレベルでの話になってくると途端に独りよがりの論理になっちゃう

はてなブックマーク - fk_2000のブックマーク / 2007年9月6日

逆もまた真なりという気もします。

『禁止』の語意は『ある行為を行わないように命令すること』だから命令ではないというなら別の言葉を使うべき。そして「禁止」ではなくなれば、この話は「無断リンク禁止」のフレームから外れる話になるはず。

http://b.hatena.ne.jp/tokoroten999/20070906#bookmark-5794682

塀の落書き禁止みたいなものも似たような用法だと思いますけど。

結局「嫌だから」以上に踏み込めず、ね。

http://b.hatena.ne.jp/ghostbass/20070906#bookmark-5794682:

というか、「何人もそこに踏み込める筋合いにない」というのが本論のもう一つの見せ場のつもりなのですけど。

言及されたみたいなので

先日書いたエントリー

に言及をいただきました。日付だけを見るとどうやら本エントリーを公開した次の日に公開されたらしいのですが、

無断リンク禁止」を宣言するのは、無断リンクされた際の相手に文句を言う説明責任だ、というのがくっぱさんの主張なのですが、

無断リンク禁止宣言はナンセンス:ekken

この意見、先日のエントリーではなくて、もしも本エントリーにリンクをしてもらっていたとしたら、きっと違う表現になっていたのではないかと。

リンクをされたくない理由を書くことによって、リンクをされる理由を生み出しているのだから、無断でリンクをされたくない人は無断リンク禁止宣言を書かない方が良いと思う。

無断リンク禁止宣言はナンセンス:ekken

この部分だけを読んで素朴に考えると「無断リンク禁止宣言」ではなくて「リンクをされたくない理由」を書かなければいいのではないかという気もしますが、詳しくは本文を読んでみないと解らないのかもしれません。